「我田引鉄」は政権交代の世に似合わない
確か、リニア新幹線が大阪まで全線開通した時のデータは、先月末に出される予定でしたが、一向に出てきません。ひょっとして次のことが影響しているのかもしれません。
民主党の鳩山内閣で防衛大臣になった北澤氏は、長野県選出の参議院議員。3期目のベテランです。その北澤氏が、リニア新幹線について、諏訪に迂回するルートを主張しているようです。当然、駅は飯田のほかに、諏訪にも建設を求めています。リニア新幹線が実際に着工に移されるためには、政権与党の同意を得ておく必要があります。北澤氏が諏訪への迂回を主張すると、リニアの当初計画(「南アルプスルート」)通りの実現が難しくなる恐れもあります。
JR東海の試算によれば、諏訪に迂回することによって、所要時間が7分伸び、建設費は6400億円増えます。甲府から一直線に飯田に向かう、「南アルプスルート」のほうが優位なのは、誰の目から見ても明らかです。諏訪地方の利便性のために、ほかの利用者すべてが犠牲になるのは許されません。しかし、北澤氏によれば、まったく逆の結論になります。一直線で結ぶのは、長野県を犠牲にしていることになるようです。工業が発達している諏訪を経由することにより、産業が発展することを考えたら、迂回によって費用が増えてもそれは十分安いと考えているようです。
しかし、長野県に2つの駅を設けると、ほかの県も黙っていないでしょう。新都留、新小淵沢、新多治見などが出ても拒否できません。長野県でも、伊那地方が駅を求めてくるかもしれません。もうひとつ、重要な問題があります。中央東線と並行してしまうのです。中央東線は「あずさ」などが通る主要幹線ですが、リニアが開業すると、乗客は移転します。JR東日本としては最低でも営業補償、できれば経営分離したいところです。中央西線でも、塩尻-中津川間の扱いが問題になるかもしれません。リニアを諏訪に迂回することは、長野県にとって新たな問題を引き起こす危険性すらあるのです。
かつて、自分の地盤に国鉄路線を引っ張ってくるということがよくありました。いわゆる「我田引鉄」です。しかし、これらの路線はどうにもならない赤字ローカル線ばかりで、国鉄の赤字の元凶となりました。国鉄の経営資源を浪費してしまったのです。さすがに国鉄の赤字が問題になった後は「我田引鉄」は減りましたが、高速道路や空港の誘致は今なお続いています。めったに車が通らない地方の高速道路や、数だけ多い空港。本来なら幹線高速や国際空港の整備に注ぐべきところが、変なところに使われています。
昔はそうやって鉄道などを引っ張ってくるのが、力の証だったかもしれません。しかし、今、戦後の日本政治では画期的な政権交代が行われ、新たな時代が始まろうとしています。その新しい時代に、「我田引鉄」は似合わないですね。リニアは東京と大阪をできるだけ一直線に結ぶものです。その原則に立てば、自ずからとるべき行動は決まるでしょう。
(参考:朝日新聞9月16日朝刊 14版)
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