名松線、地元自治体が治山工事をすれば再開か
名松線の家城-伊勢奥津間は、昨年10月の台風18号で大きな被害を受け、代行バスによる輸送が続いています。これまでJR東海は、家城以遠の復旧には消極的で、バスによる運行を続けていく方針でした。
しかし、三重県や津市などの地元自治体は、名松線の利用者がごくわずかであるにもかかわらず、バスによる代行輸送に強く反発していました。そこで、中部運輸局、三重県、津市、JR東海の4者による話し合いが続けられてきました。そこで、JR東海は、地元自治体が治山工事をすることを前提に、運転再開をする方針に変更しました。ただ、復旧はかなり先です。県の予算を使うため議会への説明が必要ですし、地権者に工事の同意をしてもらう必要もあります。JR東海が行う線路工事も1年以上かかるようです。
JR東海の求めに応じて行う、必要な治山工事の数は40。県の試算では、治山工事に約7億円を必要とします。半分は国の「自然災害防止事業」を活用します。全線復旧すればもらえるお金のようです。
沿線自治体や住民にとっては、名松線復旧の話はありがたいでしょう。しかし、果たしてそれでいいのでしょうか?
名松線はとっくの昔に鉄道としての使命を失った路線です。名松線はその名の通り、名張と松阪を結ぶ計画でした。しかし、建設の途中で参宮急行(現在の近鉄大阪線、山田線)が開通し、最新鋭の電車が走りはじめました。こうなったら、名松線を建設する意味はありません。伊勢奥津止まりなのはそのためです。
しかも、名松線を運営しているのは、JR。グループで全国の幹線鉄道を運営し、株式を公開している会社です。ローカル私鉄や第三セクターのようにある程度の赤字が許されるところではありません。自らの利益で将来性のないローカル線の赤字の穴埋めをしなければならないのです。
「新幹線や通勤路線の黒字で、ローカル線の赤字を埋めるのは当然だ」と考える人もいるでしょう。しかし、そのような論理は、ローカル線の利用者にしか通用しません。大多数の新幹線や通勤路線の利用者にとっては無駄金以外の何者でもありません。
バスで十分な路線にわざわざお金をかけるのは無駄です。鉄道はそういう少量の輸送には適していません。株式を公開していないローカル私鉄や第三セクターなら、鉄道を残すために地元自治体が赤字を負担して残すという選択肢はあるでしょう。しかし、JRにはそれが許されないのです。
(追記1)
名松線の復旧に当たって、まず県と市が工事を行います。県が土砂崩れを防ぐ治山工事を行い、市が水路整備を行って安全を確保した段階で、JR東海が線路の復旧工事を行います。鉄道での運行再開の目標は2016年度です。
(追記2)
JR東海は、2013年5月30日から名松線の復旧工事を始めることを発表しました。確実に採算の取れない路線なのに復旧工事に約4.6億円をかけ、運転再開は若干早くなり2015年度の予定です。
(参考:毎日jp http://mainichi.jp/area/mie/news/20101125ddlk24040223000c.html、asahi.com http://www.asahi.com/travel/rail/news/NGY201012090024.html、タビリスホームページ http://tabiris.com/archives/meishosen/)
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Comments
しかし、今回のJR東海の決定には、いささか、驚いてます。三重県と、事を荒立てたくないということでしょうかね。
そもそも、地元も、完全、車ベースに移行していて、本当に、使命を終えた路線なのに。まだ、第三セクターにして、地元が全部、面倒みるってなら、わかるけど。
そういう意味では、近鉄・名鉄の伊勢湾フェリー事業譲渡は、論理が明確だ。
Posted by: 大和の国の住人 | 2010.11.28 10:29 PM
大和の国の住人さん、おはようございます。
* そもそも、地元も、完全、車ベースに移行していて、
はっきり言って、名松線はJRでは運営すべきではない路線です。バスにするか、(地元自治体が責任をとる)第三セクターにしないといけないレベルの路線なのです。三重県の御機嫌をとる以外の意味はないですね。
同じ三重県のJRに投資するなら、関西線河原田以北の完全複線化に行ったほうがはるかに有意義です。
Posted by: たべちゃん | 2010.11.29 05:32 AM
河原田以北の完全複線化は、なにもなくても、JR東海が自分でとっくにやっていてしかるべきだと思うんだが、用地なりの問題があるんでしょうかね? あるいは、津まで複線できないと効果が薄い?それとも、単に消極的投資姿勢?
三重県知事は、息子の麻薬問題もあって、次でないそうなので、来年3月にできる新しい知事と話して、復旧後の名松線と伊勢鉄道の所有をスワップすれば、いいと思う。どーして、伊勢鉄道が、3セクターになって、名松線がJRに残ったんだろう?
Posted by: 大和の国の住人 | 2010.11.30 08:40 AM
大和の国の住人さん、おはようございます。
* 河原田以北の完全複線化は、
現状では進んでいないので、県などの支援が必要でしょうね。
* 復旧後の名松線と伊勢鉄道の所有をスワップすれば、いいと思う。
私もそう思います。伊勢鉄道はJRの幹線鉄道ネットワークを構成しますが(国鉄時代は本数が少なすぎて、第三セクターになりました。快速「みえ」はJRになってからの登場です)、名松線は単なるローカル線ですから(国鉄時代は並行する道路が未整備)。
Posted by: たべちゃん | 2010.12.01 05:27 AM
バスで運べるくらいの人数ならバスでいいのか?という話であれば以下のようなことも参考にしていただければよろしいかと思います。
今年の10月から湧網線代替バスが廃止され、バス会社自体の区間は大幅に短縮、その他は自治体の日数限定のスクールバス兼用路線と化しました。それも全路線でつながってない模様です。
バスになるとどうなるかわからないという不安がありますでしょうかね。私自身10年前、羽幌線の代替バスに乗りましたが、北部は私一人ということが多かったです。深名線も運転手と1対1になりました。バスだとその他大勢(?)に埋没し、よそ者がまるでおとずれなくなるでしょうってことでしょうか。
ところで名松線関連では12月に津市、三重県と連続して5億づつ予算組むと報道が載り、計10億用意されます。これについて議論があるかは私の関知しないところですが、もし、異論があるのであれば、メールを送るなりするのが筋かと思いますが。。。。
Posted by: S県の人 | 2010.12.11 07:42 PM
一応、追加記述します。
私の発言は厳しいかも知れませんので、気を悪くしないでほしいのですが。
乗りが少ないからバスでいいというのなら、バスになった路線に必ず乗ってね、ってことです。バスでいいよと言いながら、バスになったら乗らないっていう話であれば、言語道断、許されない話です。
そんなもの個人の自由だよと言われるかもしれませんが、そういう発言こそよそ者の勝手な意見。
Posted by: S県の人 | 2010.12.11 07:51 PM
S県の人さん、おはようございます。
* 今年の10月から湧網線代替バスが廃止され、
その話は私も知っています。地元自治体は、外から観光などでやってくる客は(車に乗らない限り)いらないと割り切ったのでしょう。そういうところまで国が面倒をみることではありません。
* バスになるとどうなるかわからないという
それははっきり言ってありますが、だからと言ってJRに押し付けるわけにはいかないですね。
* ところで名松線関連では12月に津市、三重県と
名松線に10億円を出して維持する価値があるかは難しいですね。あまりにも輸送量が少なすぎて、価値は薄いと思います。
* 乗りが少ないからバスでいいというのなら、
乗らないといけないのは地元の人ですね。
Posted by: たべちゃん | 2010.12.13 04:45 AM
* 乗りが少ないからバスでいいというのなら、
乗らないといけないのは地元の人ですね。
その意見は通りません。乗らなければいけないのはバスでいいと言う人です。
Posted by: S県の人 | 2010.12.14 01:04 AM
S県の人さん、おはようございます。
* その意見は通りません。乗らなければいけないのは
「廃止に反対するなら乗らなければならない」という話は時々聞きますが、廃止を容認する人が乗らないといけないというのはユニークな理論ですね。座して待てばいい話です。
Posted by: たべちゃん | 2010.12.17 04:47 AM