27日に開かれた、整備新幹線に関する国交省の小委員会。政府が建設方針を決めた整備新幹線3区間の投資効果や収益性を確認するところです。今年度中に4回開き、自治体のヒアリングなども行い、着工基準を満たしているかどうか結論を出します(国交省は今年度中の工事認可を目指しています)。
この小委員会で出てきたのが、北陸新幹線にフリーゲージトレインを導入する話。現在、大阪からの特急「サンダーバード」は富山・和倉温泉まで結んでいますが(1往復は富山を越えて魚津まで走ります)、北陸新幹線が2014年度に金沢まで伸びると「サンダーバード」は金沢止まりになってしまいます。富山まで行きません。整備新幹線の新規着工が認められ、2025年度に敦賀まで伸びると、「サンダーバード」は敦賀止まりになるでしょう。金沢・和倉温泉はもちろん、福井でも乗り換えが必要となるのです。フリーゲージトレインなら軌間の違いもクリアして、大阪から金沢・富山まで直通列車が走るのです(ちなみに、フル規格の新幹線車両は、東京-敦賀間を走ります)。
北陸新幹線(金沢-敦賀間)の投資効果及び収支採算性は、投資効果は1.0、収支採算性は年間80億円です(これでも、着工するための基準は満たしています)。これは敦賀駅で在来線特急に同じホームで乗り換えする場合(新八代方式)で、フリーゲージを導入した場合はこの数字を若干上回るようです。フリーゲージを導入することにより建設費は300億円ほど増えますが、利便性の向上により投資効果が高まるためです。
フリーゲージトレインはまだ実用化に向けて実験中の段階です。その未確定の技術を導入してよいかという危惧はありますが、実用化に向けて改良は進んでいるようですし、同じく整備新幹線の長崎新幹線でもフリーゲージトレインの技術は使われます。しかも、長崎新幹線の開業予定は2022年度なので、北陸新幹線よりも少し前です。北陸新幹線が敦賀まで開業する前に、フリーゲージトレインが使えるかどうかわかるのです。無理なら、乗り換えの不便さはありますが、対面接続で我慢してもらうだけです(もっとも、フリーゲージトレインが使えない場合、関西方面からの利便性を考え、富山以西を3線式にするのがいいでしょう。これなら、東京からも大阪からも直通できます。フル規格の新幹線のスピードは落ちるかもしれませんが、直通できることには変わりありません)。また、北陸新幹線は時速260キロ運転なので、今のスピード性能(最高速度270キロ)でも問題はありません。時速300キロ運転ができない限り山陽新幹線に乗り入れることが事実上できない(新大阪までの直通ができない)、長崎新幹線とは違うのです。
もちろん、フリーゲージ導入により、敦賀以西の整備に影響するという問題点はあります。しかし、北陸新幹線敦賀延長は福井県のためだけではありません。福井はともかく、敦賀だと北陸新幹線をフル規格でつくっても、東海道新幹線経由のほうが速いです。先に大阪があるからこそ価値がある新幹線なのです。大阪があるから建設が認められる新幹線です。
2010年に前原国交相(当時)が示した北陸新幹線の課題は、敦賀以西の整備について。フリーゲージの導入は、完全とは言えないまでも、ある程度の課題の解決に資することでしょう。最終的にはフル規格での整備が望ましいでしょうが、財源が厳しいので北海道新幹線が全線開業する2035年度ごろまで、これ以上の新規着工は難しいです。本来なら北陸に伸ばす前までに大阪までの全体像を考えるべきでしたが、「おらが県に新幹線を」という北陸地元自治体に押され、(都市間需要の一部にしか過ぎない)東京だけが便利になり、関西や名古屋が不便になる北陸新幹線を着工してしまう結果になりました。先ほども書いたとおり、金沢暫定開業の時点では、「サンダーバード」は金沢止まりとなります。新幹線に乗り入れたり、並行在来線に乗り入れたりするという配慮はありません。東京だけのことに目がくらんだ、最悪の状況です。これをある程度解決できる、暫定的な方法としてのフリーゲージトレインは容認できるでしょう。
(追記1)
2月1日に行われた整備新幹線小委員会で、フリーゲージトレインの技術的課題などが議論されました。国交省の担当者によれば、北陸新幹線にフリーゲージトレインを導入する場合は、雪害、寒冷地対策が必要となるようです。
また、フリーゲージトレインの車両は1両約3億円で、通常の新幹線より約1割高くなります。車両の幅は在来線特急と同じなので、座席は横4列となります。軌間変換装置を通過する際、時速10キロに減速する必要があり、約3分ロスします。
(追記2)
2月27日に行われた整備新幹線小委員会でJR西日本は、大阪-富山間にフリーゲージトレインを導入することを検討することを表明しました。関西と北陸を結ぶ需要は大きく、乗客の利便性を低下させないためにもフリーゲージトレインはより望ましい、としています。
また、この小委員会では国交省が投資効果や収支採算性を算出する前提にした見積もりも提示されました。これによれば、東京-敦賀間の特急料金は5650円とされています。東京-盛岡間など、東北新幹線の501~600キロの料金と同額で、上越で打ち切り計算されないと仮定しているようです(個人的には、会社の境となる上越で特急料金は打ち切り計算される可能性が高いと考えています)。
(追記3)
国交省は北陸新幹線が敦賀まで開業したときに、北陸新幹線にフリーゲージトレインを導入する方針です。JR西日本もフリーゲージトレインには前向きです。
導入される路線はこれまで言われてきた富山-大阪間のほかに、国交省は富山-名古屋間(米原、岐阜経由。東海道新幹線には乗り入れません)も検討しています。
(追記4)
フリーゲージトレインの新しい実験車両をつくる費用は2012年度予算で確保されています。その新しい車両で、寒冷地走行試験も行うようです。
(参考:福井新聞ホームページ http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/railway/32754.html、http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/politics/32774.html、http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/railway/32845.html、http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/super_expless/36432.html、国交省ホームページ http://www.mlit.go.jp/common/000190084.pdf、http://www.mlit.go.jp/common/000192883.pdf、http://www.mlit.go.jp/common/000192891.pdf、http://www.mlit.go.jp/common/000204766.pdf、日本経済新聞ホームページ http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819481E0E5E2E1E28DE0E5E2E0E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2、朝日新聞ホームページ http://www.asahi.com/kansai/travel/news/OSK201204280039.html)
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