米原乗り換えの北陸新幹線ではフル規格化の意味がない
北陸新幹線の最大の課題は、敦賀以西のルートが決まらないこと。この課題の重要さは、敦賀までの着工が決まった後においても、変わりません。
敦賀以西のルートは3つ考えられています。若狭や亀岡を経由する「若狭ルート」、湖西線沿いに走る「湖西ルート」(京都駅で東海道新幹線に接続)、米原で東海道新幹線と接続する「米原ルート」です。いずれも一長一短があり、なかなかひとつに決まりません。そんな中、関西広域連合が3ルートの建設費を試算しました。関西広域連合は早ければ今月28日にも意見を取りまとめ、国に提案する方針です(ただし、ルートに対する評価に加え、費用負担のありかたについては調整はついていません)。
「若狭ルート」は建設距離が123キロと最も長いため、建設費は一番高く、約9500億円。「湖西ルート」は建設距離が81キロで、建設費は約7700億円。「米原ルート」は建設距離が44キロと最も短いため、建設費は約5100億円にとどまります。米原で新大阪方面に直通せずに乗り換えさせた場合、約3600億円でできます。
建設費の安さから「米原ルート」を推す考えもあるようですが(ただし京都府は、災害時の東海道新幹線の代替性や福井県など北陸地域との協議の必要性から、「若狭ルート」についてもさらに検討するように主張しています)、特に米原で乗り換えさせる案は「安物売りの銭失い」でしょう。新幹線と在来線との直通というように、軌間が違うから直通できないのは仕方がないかもしれませんが、同じ規格の新幹線が直通できないのは理解できません。東京での東海道新幹線と東北新幹線のように直通需要がそれほどないのならともかく、米原を目的地とする需要は少ないのですから。しかも、米原で乗り換えさせた場合、不便な乗り換えになると考えられます。敦賀の場合は、フリーゲージトレインが実用化しなかった場合でも、それなりの配慮はなされます。新幹線新八代駅でかつてあったように、同一ホームで乗り換えすることのできる方法です。そういうのが、米原では期待できないのです。乗り換えを便利にしようとすると、東海道新幹線も手直しが必要ですから。北陸新幹線のホームから階段を上り下りし、やっとの思いで東海道新幹線ホームに行くという面倒な乗り換えを強制される危険性もあります。これでは、新幹線をつくる意味はほとんどありません。「米原ルート」の場合、高速鉄道網の整備に消極的な(簡単にいえば「お金を出したくない」)滋賀県を通るという、もうひとつのリスクがあります。
リニアが全線開業し東海道新幹線に乗り入れる余裕ができ(当然ながら直通できるように設備をつくっておくので、建設費は約5100億円かかります)、新大阪まで直通しても課題は残ります。料金が上がるのです。大阪市内-金沢間の運賃(営業キロはたとえ「米原ルート」でも、新幹線になっても変わらないものと仮定します)・特急料金(普通車指定席、通常期)でみると、現在の「サンダーバード」は7440円です。敦賀まで開業し、フリーゲージトレインが導入されると、運賃が変わりませんが特急料金が2820円から4630円に上がるため、9250円になります(金沢-敦賀間の新幹線料金と敦賀-大阪間の特急料金×0.7の合算と想定)。「若狭ルート」で全線開業した場合は、8500円(フリーゲージトレインより安いので、何らかの調整がなされる可能性もあります)。ところが、「米原ルート」なら、北陸新幹線部分と東海道新幹線部分の料金が別々になり、10570円になってしまいます(山陽・九州新幹線のように、ある程度の調整はあるでしょうが。もし、山陽・九州新幹線と同様の値引きを行うなら、510円安い、10060円となります)。利用者にとってみれば何の値引きがなくてもフリーゲージトレインよりも1300円ほど高いだけなので、受け入れられるかもしれませんが、一番困るのはJR西日本。これまでは全額が自分の財布に入るのに、「米原ルート」だと東海道新幹線部分がJR東海に取られ、手取りはむしろ減ってしまいます。新幹線開業が、むしろ自社にとってマイナスに働く危険性もあるわけです。ここの調整もしておかないといけないでしょう。
ちなみに、「建設費の安い『米原ルート』なら早くできるのでは?」と考えられるかもしれません。しかし、東海道新幹線の容量は厳しく、リニア全線開業の2045年にならないと新大阪直通は厳しいです。敦賀以西を着工することができるのは2035年度以降のことでしょうから、10年程度あれば「若狭ルート」でも建設できます。そんなに早くならないのです。
(参考:YOMIURI ONLINE http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20130309-OYO1T00297.htm、京都新聞ホームページ http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20130308000074)
| Permalink | 0
「鉄道」カテゴリの記事
- 広電の駅ビル乗り入れ、数か月遅れる?(2024.10.06)
「整備新幹線」カテゴリの記事
- 函館線余市-小樽間の代替バスは1日125本(2024.09.08)
- 北海道新幹線、開業は6年遅れか?(2024.08.25)
- 北陸新幹線敦賀-新大阪間の3ルートを比較する(2024.08.12)
- 北陸新幹線敦賀-新大阪間のルートは京都付近の経路によって変わる(2024.08.08)
Comments
>10年程度あれば「小浜ルート」でも建設できます。そんなに早くならないのです。
小浜ルートでは、京都を通らないことが致命的欠点であるし、建設費も高く、新大阪付近での新たな用地買収も必要です。
GCTが実用化されれば、小浜ルートを作るくらいなら、敦賀打止めでよいということになるかもしれません。
Posted by: かにうさぎ | 2013.03.12 10:29 PM
かにうさぎさん、おはようございます。
* 小浜ルートでは、京都を通らないことが致命的欠点であるし、
「若狭ルート」の建設費は、大阪付近も含んだ数字ですから、そう心配する数字ではないでしょう。お金をかけた分だけ、JR東海の意思に左右されないものができます。
* GCTが実用化されれば、
フリーゲージトレインが実用化されるというのが前提ですが、そのような可能性もあります。
Posted by: たべちゃん | 2013.03.13 06:12 AM
>お金をかけた分だけ、JR東海の意思に左右されないものができます。
しかし、そのメリットも享受できるのは、大阪だけです。京都にとっては、小浜ルートはデメリットしかもたらさず、それなら敦賀止り・湖西線GCTの方がましということです。
大阪の都合だけを主張するなら、関西全体の支持は得られません。(事実、小浜ルートの支持は3ルートの中では最も低い)
大阪にしても、GCTとの時間差は30分程度だし、GCTなら大阪駅まで直通できることを考えれば、有意差とは言えない。京都を犠牲にしてまで、全線フル規格に拘る必要性は薄い。
米原回りは、現ルートより遠回りになる分、時短効果が薄いため、関西方面には必ずしも最適とは言えない。関西方面には、湖西ルートの方が望ましい。
(大阪だけの都合なら小浜ルートの方がよいが)
米原・湖西ルートなら、リニア開業とセットにするのが望ましいが、別にそれを待たずとも不可能とは言えない。
東海道新幹線は、3月より10-3-2ダイヤとなったが、それはあくまで、東京口の本数で、「こだま」の2本は名古屋・三島止りだ。残る「こだま」1本も名古屋止りにすれば、北陸新幹線列車を入れることは可能だ。
Posted by: かにうさぎ | 2013.03.23 11:23 AM
* 大阪にしても、GCTとの時間差は30分程度だし、
フル規格の新幹線ができれば、それに越したことはないでしょう。敦賀-新大阪間の需要が少ないならともかく、それなりのものがありますから、整備されるのが望ましいと言えます。
* 東海道新幹線は、3月より10-3-2ダイヤとなったが、
机上の計算では、現在でも東海道新幹線に乗り入れる余裕があるでしょう。ただし、JR東海が乗り入れを認めない限りは、何の意味もありません。
仮にJR東海が認めないならば、「米原ルート」「湖西ルート」は論外となります。
Posted by: たべちゃん | 2013.03.23 12:18 PM