貴重な存在となった、北の夜行列車に乗る(1)
旅の始まりは「ムーンライトながら」。臨時列車となって久しいが、「青春18きっぷ」の時期には運行される。名古屋から乗る。車両は昨年に引き続き185系の10両編成。指定券は発売初日の昼に買ったが、その時点で残席は少なく、車内もほぼ満席だ。ところどころ空席があるが、払い戻しをしてもほとんど戻って来ないため、予定が変わって乗車しないことになってもキャンセルしない者がいると思われる。
定刻に東京に着き、待合室で次の列車を待つ。次に乗るのは東北新幹線「はやぶさ61号」、東京6:00発の新青森行きだ。定期列車の始発、「はやぶさ1号」よりも早く新青森に着く。E5系に乗ること自体初めてだが、今回選んだのはグリーン車よりもグレードの高い、「グランクラス」。新青森までの特急料金(通常期の指定席特急料金から520円値引きされたもの)は6680円だが、「グランクラス」料金はそれよりも高い10280円もかかる。そう何回も乗ることができるものではない。
「はやぶさ61号」は東京を出た。次の上野を出てから、アテンダントの挨拶がある。テープではない。ちゃんと客室の前に立って挨拶する。普通車は横5列、グリーン車は横4列、そして「グランクラス」は横3列。上級クラスなので椅子がいいのは当然だが、「グランクラス」の売りは先ほどの挨拶でもわかるように、手厚い人的サービスがあること。定員18人の車両に2人のアテンダントがつく。実際に乗ったのはたった8人なので、4人に1人の割合だ。これから北海道まで列車を乗り継いで行くので、仙台まで寝ることにする。毛布を貸してくれた。
目覚めると間もなく仙台に着くところだった。さすがは東北、雪化粧をしている。「グランクラス」利用者には、軽食のサービスがある。乗ったことはないが、航空機のファーストクラスみたいだ。和食と洋食から選択でき、和食を選ぶ。小ぶりな弁当だが、朝食としてはいいぐらいだ。「グランクラス」利用者には茶菓子(あられ、りんごのパウンドケーキ)ももらえ、アルコールも含めてフリードリンクだ。朝なのでアルコールは飲まなかったが(ただし、ソフトドリンクは6杯飲んでいる)、ビールはヱビス。いいものが用意されている。先ほども述べたように「グランクラス」に乗る機会はまずないが、乗るなら夜のほうがよさそうだ。旅を振り返りながら、酒とつまみ代わりの弁当を楽しむのだ。
新青森に到着。宇都宮から盛岡の間は日本最速、そして世界最速タイの時速320キロ運転をしていたはずだが、そのようなスピードは感じられなかった。ここから函館行きの特急に乗り換えるのだが、接続する「スーパー白鳥1号」(新青森10:17発)の指定席は取れなかった。2両しかない自由席に乗るしかないのだが、混雑することが予想されるので、「はやぶさ」を1本早い臨時にしたのである。この考えは正解で、楽々と窓側(海側)の席を確保。在来線ホームにも待合室はあり、外も思ったよりは寒くない。秋田方面から「つがる1号」で新青森に来て、函館方面に乗り継ぐ客も意外と多く、「はやぶさ1号」に乗っていたら函館までの2時間余り、立ち通しだっただろう。ただ、「スーパー白鳥1号」が混むことは予想されるのだから、臨時の「はやぶさ61号」の停車駅を絞って、1本前の「白鳥」に接続させてもよかったのではないか、とも思える。
奥羽線は単線。「スーパー白鳥1号」は、「スーパー白鳥16号」の到着を待って、新青森を3分ほど遅れて発車。青森でも奥羽線の接続を取り、4分ほど遅れて発車。青森で降りる客も少しはいるが、青森から乗ってくるのもいて、通路に立つ人が多いことには変わりはない。新中小国信号場で津軽線から分かれ、海峡線に入る。狭軌の線路の中に入り込むかたちで標準軌の線路が入ってくる。2016年3月開業予定の北海道新幹線の線路だ。北海道に行くのは9年ぶり、そのときは出張で航空機で札幌に直行したから、鉄道で北海道入りするのは13年ぶりだ。そのときは北海道新幹線建設の具体的な動きはなく(大体東北新幹線自体、盛岡止まりだった)、次に来るときには北海道新幹線が開業しているだろう(ただし、海峡線部分は新幹線と言えども時速140キロなので、速さは現状の「スーパー白鳥」と変わらない)。津軽線から海峡線へ行く線路も、貨物線になってしまい、乗ることができなくなってしまうかもしれない。北海道新幹線開業直前の姿を見ることができる、貴重な機会だ。海峡線にはすでに新幹線用の標準軌が敷かれ、三線軌となっている。ただこの狭軌線、津軽今別では本線から分かれる。屋根のあるところを走るのは新幹線の標準軌だけで、狭軌は駅の外を走る。たとえ夜行列車が残っても、津軽今別(新幹線開業後は奥津軽いまべつ)には停まらないのでこれでもいいのだが、今2往復だけ停まっている特急のホームはどこなのだろうか? よくわからなかった。やがて「スーパー白鳥1号」は青函トンネルを抜け、北海道に上陸。木古内からは江差線を走る(海側の座席だったので、5月に廃止になった江差への線路跡はわからなかった)。新幹線開業後は道南いさりび鉄道となる区間だ。青函トンネル開業まではローカル線だったので、津軽線同様、規格は落ちる。カーブのあるところでは、特急と言えどもゆっくりと走る。五稜郭でなぜか10年以上前に廃止になった快速「海峡」用の客車を見ながら、4分遅れで函館に到着。結局、遅れは取り戻せないままだった。
函館ですぐに接続するのは12:29発の「スーパー北斗7号」だが、この列車も指定席が取れず。後続の函館12:42発「北斗87号」に乗る。「スーパー白鳥1号」は4分遅れたが、「スーパー北斗7号」は定刻の出発。ぎっしりと客を乗せて、慌ただしく出発する。さて、ちょうどお昼どき。「北斗87号」は臨時列車なので車内販売はない。しかも、ホームに駅弁を売る売店はない。駅員に断って、改札を出てすぐの売店で駅弁を買う。「鰊みがき弁当」だ。指定された席に座る。「北斗87号」は5両編成、グリーン車はなく、前2両は自由席、後3両は指定席だ。函館出発直前に自由席を見たが、ほぼ椅子が埋まる程度で、立つ人はいなかった。「北斗87号」は函館を発車、次の五稜郭までは来た線路をたどる。五稜郭からは江差線と分かれ、北に進む。しばらくすると新幹線の線路が見えてきた。しかし、この「北斗87号」は、新幹線開業後、新函館北斗となる渡島大野を通らない。札幌方面に行く函館線の優等列車(一部の普通列車も)は、七飯−大沼間、藤城線を経由する。しかし、新幹線開業後は「北斗」なども新函館北斗を経由すると考えられる。藤城線は貨物線になる可能性が高いのだ。さて、この「北斗87号」、車両は振り子のキハ283系だが、頭に「スーパー」がつかないことからも分かる通り、遅い。先行する「スーパー北斗7号」は札幌まで3時間半だが(しかも一連のスピードダウンが始まる前は、函館-札幌間を3時間で結ぶものもあった)、この「北斗87号」は4時間半近くかかる。臨時列車でダイヤのすき間を縫って設定されているためか、かなりの鈍足だ。しかも、森の手前の駅で対向列車の遅れから、11分も遅れることとなった。
しかし、ダイヤに余裕があるためか、この遅れは東室蘭に着く時点で解消した。ただ、複線区間に入ってもダイヤを縫って走ることには変わりなく、東室蘭で4分の(ダイヤに織り込み済みの)時間調整を余儀なくされる。その後もゆっくり走ることが時折見られる。次の登別で、隣に座っていた若い女性が降りた。これで隣が空くと思ったら、今度は男性が座ってきた。ところが、話はそこで終わらなかった。後から外国人(中国人?)が特急券を見せながら、「Our Seats」と言ってきたのである。指定席を取っていないのに席に座った人は次々と、席を立っていった。当然と言えば当然だが、彼らは英語で言っている。それなのに皆が皆、意味がわかってきちんと行動できているのは、日本人の英語能力もそれなりに上がっているということだろうか? ともかく、意外なことに登別でところどころ空いていた席が埋まった。登別ぐらいの短距離なら自由席にすると思っていたから。
北の夕暮れは早い。16時ぐらいで暗くなりはじめ、16時半には完全に真っ暗。夜となった北海道を「北斗87号」は走る。結局、札幌で先行列車が遅れたためホームに入ることができず、2分遅れで到着した。(続く)
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