最後の食堂車
昔、特急列車には食堂車がついているのが当たり前だった。食堂車のない特急は二流扱いされていた。しかし、ダイヤ改正毎に食堂車が姿を消し、とうとう1986年11月のダイヤ改正で在来線の昼行特急から食堂車が完全に消えてしまった。それでも、新幹線「ひかり」にはほとんどの列車に食堂車が連結され、ビジネスマンたちの憩いの場となっていた。
風向きが変わるのはJRになってからである。経済が好況を迎え、グリーン車の需要も増加した。そこで、食堂車の代わりにグリーン車が連結されるようになった。100系新幹線の後継としてつくられた300系・500系・700系新幹線には最初から食堂車がなく、グリーン車が3両ついている。当たり前のように存在していた食堂車も、ダイヤ改正のたびに連結される列車は減り、ついに3月11日の改正で食堂車の営業は廃止されることになった。食堂車つきの新幹線が営業される最後の日曜日の今日(3月5日)、友人たちと「ひかり127号」(東京16:07発)に乗車し、「最後の食堂車」を味わうことになった。この列車はJR西日本系の「Jウェストラン」が営業するものである。
列車の発車40分前に新幹線ホームに着くと、すでに友人たちが待っていた。食堂車の辺りだけ列ができていて、「最後の食堂車」を味わおうとする人が多いことに驚く。私たちは食堂車の入り口付近に立ち、食堂車の営業開始を待つ。
新横浜を過ぎた辺りで食堂車の営業が開始された。あっと言う間に食堂車の椅子は全部埋まった。こんなに賑やかな食堂車は久しぶりである。私たちはチーズ盛り合わせとビール、それにビーフシチューセット(ライス・サラダ・コーヒーつき)を注文した。一般的には「食堂車は高い」というイメージがあるが、今回は「廃止記念」ということで値下げされているらしい。こんなにもたくさんの料理を2000円で食べることができるのは安いものだ。先にビールが来て、まず乾杯。食堂車にまつわる思い出を肴に楽しい時間が過ぎていく。
メインディッシュのビーフシチューがやってきた。ビーフシチューは人気が高く、あっという間に売り切れたようだ。もう新幹線の車中でビーフシチューを口にすることはできない、そう思いながら一口ずつ味わうことにした。最後のコーヒーを飲み、食堂車を後にするころにはすでに列車は浜名湖にさしかかっていた。食堂車の前には列がずらりとできていた。
11日の改正以降は「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」の3列車のみに食堂車は連結される。しかし、これらはいずれも旅を楽しむために乗る列車であり、非日常的な存在だ。そういう点から考えると、新幹線の食堂車は「最後の食堂車」と言ってもよい。食堂車の営業はあとわずかでなくなってしまうが、食堂車で食事をしたことは永遠に記憶に残るであろう。(終わり)
下の写真(5枚)はすべてあつさんの提供によるものです。あつさん、どうもありがとうございました。
↑最後の食堂車の旅に出発!
新幹線に積み込まれる食材↓
↑メニュー表
ビール、チーズ、そしてビーフシチュー↓
↑かなり混んでいた車内
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