富士山に電気バスを走らせることができないわけ
富士山に鉄道を通す計画は、浮かんでは消えています。今回出てきた案は、山梨県が出してきた案。長崎山梨県知事が公約として出したもので、富士山吉田口五合目までを道路から鉄道に変えるのです。
それではなぜ富士山に鉄道を通すのでしょうか? 富士山五合目を訪れる人が増えているのです。2019年の来訪者数は506万人、世界遺産に登録される前の2012年の231万人に比べて2.2倍に増えているのです。しかも、山に登ることができる時期が限られているためか、7~8月の週末に来訪者は集中しています。マイカーの規制が強化され、マイカーでの来訪者は減っているものの、その分大型バスでの来訪者が増え、環境の負荷は重くなっています。来訪者が増えるとトイレなど富士山五合目の施設もそれに合わせて大きくしなければいけません。富士山の景観は世界遺産登録時においても問題になっており、鉄道やライフライン(富士山五合目には電気や上下水道といったライフラインは整備されていません)を整備することにしたのです。鉄道は環境の負荷が小さく輸送力があります。定員制にすることによって来訪者数をコントロールします。鉄道はバスに比べて景観面で優れているとされ、世界遺産登録時に問題となった事項も解決するとされています。
鉄道のルートは2つ考えられています。現在の富士スバルラインを活用するのが、普通鉄道、ラックレール式鉄道、LRT。四合目から五合目にかけての雪崩の起きやすい区間を回避する短絡ルートを新たにつくるのが、ケーブルカーとロープウェイ。この5つの案の中で選ばれたのが、LRT。下り勾配で速度制限を受けるものの、法制度への適合性が高く、比較的氷雪に強く、騒音、振動、バリアフリーに優れ、緊急車両を軌道上に走らせることができるからです。道路をそのまま軌道に転用することができるのです。LRTの長さは1両10メートルの3両編成(1編成の定員は120人)で、これを2つまで連結することができます。つまり、最大で6両編成になります。このような小さな車体の列車が走るので、急カーブでも道路を拡幅することなく通すことができます。なお、軌間はバッテリー等の機器を搭載しやすいように1435ミリとします。鉄道の乗り場は東富士五湖道路の富士吉田駐車場付近で、駐車場や車両基地を備えます。富士急の河口湖駅から2キロほど離れていて、富士急など既存の鉄道との接続は将来的な課題のようです。ここから富士山五合目までは28.8キロ、途中に駅を4つ設けます。最高速度は五合目への上りが路面電車としての法規制から時速40キロ、下りが時速が25キロです。急カーブでは上下とも時速10キロです。勾配は80パーミルです。そのため上り下りで所要時間の差ができ、上りは52分、下りは74分かかります。
気になるのが運賃の高さ。往復で1~2万円もします。立山黒部アルペンルートや海外の登山鉄道を基準にしたものですが、現在、富士山駅、河口湖駅からのバスは、往復で2300円ですので、4倍以上もします。これだけの運賃を取るので単年度損益は開業初年度から黒字、累積損益も2年目に黒字となりますが(観光鉄道なので、税金で赤字分を賄うことはできません)、これだけの高い運賃を取るのなら、ほかのルートに行くことが容易に想定されます。しかも、富士山に架線レスのLRTを走らせる技術はまだ確立されていません。鉄道の案で電気バスを却下したのは、富士山の連続する勾配に耐えられないと判断したからです。電気バスは平坦なところに向いているのです。LRTも大丈夫かどうかはわかりません。
現時点では、富士山に鉄道を通すのは難しいと言わざるを得ないでしょう。現実的な策としては、富士山からマイカーを締め出し、上高地みたいにバスオンリーにします。バスオンリーなら入山者のコントロールができますし、環境対策費用をバス運賃に上乗せすることができます。混雑するシーズンの週末には、さらに高くすることもできます。課題のライフラインの整備だけなら100億円でできます。それで勾配にも耐えられる電気バスが登場するのを待つほうが無難でしょう。
(追記)
堀内富士吉田市長は2月10日の定例記者会見で、富士山への登山鉄道に反対する考えを示しました。富士山の落石に対する対応がなされていない点です。また、鉄道をつくらなくてもマイカー規制で十分対応できるとしています。
(参考:ITmediaビジネス ONLINE https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2012/04/news039_4.html、タビリスホームページ https://tabiris.com/archives/fujitozantetsudo/、毎日jp https://mainichi.jp/articles/20210211/k00/00m/040/097000c)
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