アルプス横断物語(1)

 旅のはじまりは名古屋駅。今日は長野行き急行「ちくま」で旅立つ。この列車には何度か乗ったことはあるが、電車になってからは初めてだ。

 ホームに上がるとすでに「ちくま」は止まっていた。金曜日の下りなので、車内はかなり混んでいる。見たところ、登山客が多いようだ。中には、自転車を持ち込んでいる学生もいる。

 アルペンルートの長野側の入り口は、信濃大町。ここからアルプス横断の旅が始まる。駅前から扇沢行きのバスに乗る。高原は赤く色づき、秋を感じさせる。

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 扇沢-黒部ダム間は1本の長いトンネルで結ばれていて、トロリーバスが走っている。電車と同じように、上の架線から電気をもらって走るので、排気ガスの心配はない。かつては大都市でも走っていたようだが、今ではアルペンルートの2か所のみで見ることができる。


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 黒部ダム駅から220段もの階段を登ると、黒部ダムを一望することのできる展望台。小雨が降っていて、ちょっと寒い。ここで、黒部ダムの説明をしよう。

 日本でも有数の急流として知られる黒部川は、水力発電にとって理想的な場所であるが、厳しい地形と気候のためにダムの建設にはなかなか踏み切ることはできなかった。しかし、関西電力は1956年にダム建設を決意する。そして、あらゆる技術を駆使し、7年の歳月と約500億円の巨費、それと171人の尊い犠牲のもとに、1963年、黒部ダムは完成した。なお、先ほど通ってきたトンネルは、黒部ダム建設のための道路として建設されたものである。このトンネルは黒部ダム建設に欠かせないものであったが、途中に破砕帯があり、建設にはかなり苦労したと言われている。


 黒部ダムを歩いて渡り、対岸のケーブル乗り場に行く。ここのケーブルは自然環境との調和と雪害の防止のため、全線地下につくられている。こんなことを知らずに、「左と右、どちらが景色はいいですか?」と駅員に聞く人は多いらしい。

 黒部平でロープウェーに乗り換え、大観峰へ。このロープウェーも環境保護のため、駅の間には支柱は全くない。前も後ろもよく見える。下の写真の左側は、黒部平から見た立山連峰、そして右側は大観峰から見た黒部ダム・後立山連峰である。あれだけ大きかった湖が、小さくなっている。

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 大観峰からはトロリーバスに乗る。もともとはトンネルバスが走っていたところだが、2年前にトロリーバスになった。日本最高所のトンネルを走ること10分、室堂に到着だ。