97 東北 出会いと別れ(2)

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 青森からは、バスの旅。千人風呂で有名な酸ヶ湯温泉<すかゆ>、大町桂月<おおまちけいげつ>が愛し、ついには移り住んだ蔦温泉などを経由して、十和田湖まで行くバスがある。

 終点まで乗ると3時間近くかかるので、いくつかのバス停で5~10分の休憩を取る。最初の休憩地は、萱野茶屋。ここには小さな売店があり、無料でお茶のプレゼントがある。飲めば長生きする、というお茶だ。


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 青森と秋田にまたがる十和田湖から流れ出る川はたったひとつ。それは奥入瀬川である。十和田湖の子の口<ねのくち>から焼山までの14キロを「奥入瀬渓流」といい、古くからすばらしい景観で世に知られている。新緑や紅葉の季節は特にすばらしい。バスツアーだと沿道から眺めるだけで終わってしまうのだが、この奥入瀬渓流を時間をかけて歩く。

 川は、穏やかに流れているところもあるし、急流になっているところもある。目を横に向けると、滝から水が流れ落ちる。今は春を迎える前の寂しい光景だが、シーズンには渓谷美を楽しむことができるであろう。

 銚子大滝が見えると、ゴールは近い。銚子大滝はそれほど大きい滝ではない。那智の滝のようなイメージでいると、がっかりするだろう。しかし、この滝は生物にとっては大きな意味を持っている滝なのだ。明治時代になって、和井内貞行がヒメマスの養殖に成功するまで、十和田湖は魚がすむことのできない湖だったのだ(今では、ヒメマスは十和田湖の名物)。魚は、銚子大滝を越えることはできなかったのだ。


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 十和田湖は、二度の火山活動によって生まれた、面積60平方キロ、周囲44キロ、最深部326.8メートル(日本第3位の深さ)のカルデラ湖。湖は青く澄み、周りを山が取り囲んでいる。

 十和田湖のシンボルといえば、高村光太郎の最後の作品である、「乙女の像」。向き合っている2人の裸婦は、妻の智恵子をイメージしたものだといわれている。銅像の近くには、高村光太郎の詩も添えられている。彼は、詩人でもあり、彫刻家でもあったのだ。


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 「乙女の像」のある休屋地区は、旅館や飲食店がたくさんある。

 しかし、そこから15分ほど歩いた十和田神社は、それを忘れさせてくれる。灯篭が少し傾いているようにも見え、階段も崩れそう。しかしこの神社は、今から1200年ほど前、坂上田村麻呂によって建立された、由緒正しい神社なのだ。